ゃないか。もうこの手は離さない。……居てくれよ、頼むから。惚れられたと思やいいじゃないか」
 彼は駄々をこねるように身を揺っていたが、急に眼の底が熱くなってきて、卓子の上につっ伏した。
「ああ酔っちゃった。」
 吐き出すように云ったのがなおいけなかった。熱っぽいものが胸の底からこみ上げてきた。
「気分でも悪いの、え?」
 お清は歩み寄ってきて、彼の肩に手を置いたが、それから、無理に顔を挙げさした。彼は涙にぬれた顔をひょいと挙げて、大声に笑ってやった。
「どうしたのよ、井上さん!」
「泣いたり笑ったり……。」
 ぴょんと跳ねて長椅子の上に身を落したが、後の言葉がつかえているうちに、彼は俄に真剣な気持になっていった。英子かも知れないお清とこうして戯れてることが、頭の奥に恐ろしい閃きとなって映った。眼を見据えると、お清は卓子の端につかまって立ちながら、こちらをじっと見ていた。前髪の影を受けた顔の中に、すっと通った鼻筋が白々しく澄していた。
 周平は急に立ち上って云った。
「もう帰るよ。」
「あら、どうして?」
 彼が何とも答えないで帽子を取ろうとすると、お清は素早くそれを取上げてしまった。

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