の女中だったが、勘定書を持って来たのはお清だった。
「もう帰るの。」
「ああ、」と村田は答えた、「つまらないから他《ほか》で飲み直すんだ。」
「どうぞ御勝手に。」とお清は云い捨てておいて、周平の方へ向いた。「こんどゆっくりいらっしゃいよ。一人でね。」
耳許で俄に低く囁かれた最後の一句が周平の耳にまだ響いている時、村田は振り返って大声に云った。
「おいおい、人前で耳打ちをするって奴があるか。」
「そう、御免なさい。」
と答えて彼女が、じろりと村田の方へ意味ありげな眼付を投げたのを、周平は顔が赤くなるのを感じながらも認めて、それが変に気にかかった。そしては却って、彼女の方へ心が惹かされていった。
三十三
周平は次第に、蓬莱亭へ足繁く通うようになった。金がない時には友人と一緒に、金がある時には一人で行った。最初一人で行った時には、実際酔っ払ってもいたし、酔いの中に自ら自分をつき放してもいたので、大胆に三階へ上っていって、長椅子の上に身を投げ出したまま、お清を相手に暫く無駄口を利いていたが、ふとそうした自分自身に気がさして、間もなく帰っていった。そのことが後で気分にこだわっ
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