うな気がした。もしそうだとすれば、保子に対して非常に済まない訳だった。その上、悪い結果になりそうだった。彼はも一度、前からのことを頭に浮べてみた。保子の態度を考えてみても、また横田の態度を考えてみても、二人で相談の上なされたことだったかどうか、全く見当がつかなかった。
 彼は推察に迷った。そして、村田の意見を聞いてみようかと思った。村田は長い間横田の家《うち》と懇意にしていたし、初め周平を横田の家に連れていったのも彼だった。此度のことを話しても差支えなさそうだった。このまま自分一人で気まずい思いをしているよりも、彼の意見を聞いた方が、何かの場合――そんなことはあるまいけれど、もしあるとすればその場合――のためになりそうだった。
 村田は、風に吹飛されそうな帽子を気にしながら、黙々と歩いていた。周平はその方を横目で窺いながら、思い切って云ってみた。
「おい、君の意見を一寸聞きたいことがあるんだが。」
「何だ?」
 村田は足をゆるめて、周平の方をふり向いた。
「実は一人で考えあぐんでることなんだが、内密にしてくれなくちゃ困るよ。」
「ああ大丈夫。……悪い女にでも引っかかったというのかい。」
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