はなかった。
 周平は種々考え惑った末、村田に出逢った時、思い切って尋ねてみた。
「君は高井英子さんを本当に知ってたのか。」
「高井英子、何だいその女は?」
 村田はけろりとした顔付をして周平の方を見返した。
「そら、君がいつか話したろう、吉川さんと一緒になっていて、隆ちゃんを生み落すと吉川さんを捨てて、大阪の方に……。」
「ああ、あの女か。」と村田は周平の言葉を中途で遮った。「それがどうかしたのか。」
「いやどうもしないけれど……。」
「じゃあ何だい? 噂でも聞いたのか。それらしい女にでも逢ったのか。」
 疊み掛けて尋ねられると、周平はどう答えていいか分らなかった。暫く黙ってた後、苦しまぎれに突込んでいった。
「いやそれよりも、君は英子さんに逢ったことがあるのかないのか、それが先決問題だ。」
「いやに面倒くさいんだね。……僕は一度も逢ったことはない。名前だけは聞いて、大抵どんな女だか想像はついてるが、まだ顔を見たことはないんだ。」
「だが君は先達っての話に、こうこういう顔の女だということまで云ったじゃないか。」
「それは僕の想像さ。性格を聞いてその顔立が分らないようじゃ、小説は書けや
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