いてると、お清は時々側にやって来て、一座の女王らしく取澄したり、または一人で話を奪っていったりした。話の調子が少し受太刀になってくる時には、簡単な京大阪の弁を真似てごまかした。「さかい……おます……だっせ……えろう……ほんまに……そない……やろ……」などの語を連発した。
「あんたそないなこといやはっても、ほんまのことではないさかい、駄目だっせ。」
それで皆はどっと笑った。彼女は一寸首を引込めたが、彼女の顔をじっと見ている周平の方へ向いた。
「こちらはえろう人の顔を見てなさるが、顔に何かついておますか。」
周平はただ苦笑した。然し、彼女の姓が高井だと聞いた時、彼はぎくりとせざるを得なかった。
彼等のうちに、種々なつまらないことばかりを知ってる深谷《ふかや》という男がいて、姓名判断をしてやるというので、皆の姓名を順々に聴きただしていって、しまいにお清へまで及んでいった。その時彼女は、「高井清子《たかいきよこ》っていうのよ、いい名前でしょう、」と即座に答えた。
「高井清子、それは拵えた名前なんだろう。本当の名前でなくちゃ駄目だ。」と深谷は云った。
「いいえ、本当の名前よ。」と彼女は澄し
前へ
次へ
全293ページ中185ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング