披露して歩いたものだ。そうなると、自棄になってるのか、惚気《のろけ》てるのか、諦めをつけてるのか、それとも内々予防線を張ってるのか、訳が分らないやね。その頃僕達はよくあの家へ行ってたものなんだ。」
周平が黙ってるので、村田はまた云い続けた。
「然し考えてみりゃあつまらない話さ。面白くもない女を相手に、惚れたとか惚れないとか騒ぎ廻って、実はどうでも構わないのを、酒の勢で無理に自分を深みへ引きずり込むんだからね。竹内にしたってそうさ。友人共の手前、また酒の余勢で、むりにああしていたようなものの、実はお清に対してそれほどでもなかったんだろう。やがてけろりとしてしまって、石のつぶても無しのつぶても、冗談の役にきり立たなくなってるんだからね。皆も其後、二階や三階から変に気圧《けお》されるようなあんな家へは、次第に足が向かなくなってしまったんだ。云ってみりゃあ遊牧の群だね」
周平は初めから注意深く村田の言葉を聞いていた。村田の話には、例によって勝手な創作が多く交っていて、頭の中でうまくまとめたようなふしがあった。が実際は、もっとまとまりのつかないもので、深い根があちらこちらに出ていそうだった。
前へ
次へ
全293ページ中183ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング