も彼は、知らず識らず酒杯の方へ引きつけられていった。金があると気が大きくなった。金がなければ野村や其他の知人から五円十円と借り歩いた。無一文の時には、友人の誰かが何とかしてくれた。
彼は次第に、村田や其他の友人と近しくなっていった。あらゆる点で便宜だった。金の融通もついたし、面白くもあった。横田の書斎での真面目くさった彼等は厭だったが、酒杯の間にはめを外した彼等は愉快だった。彼等の方でも新米《しんまい》の周平を面白半分に引廻した。
「おい、井上、今晩探険に出かけないか。」
がやがやした騒ぎが静まると、彼等は興味の種を探すようにしてそう呼びかけた。
周平はどんよりした眼を見据えて黙っていた。
「井上は駄目さ。」と村田が云った。「北極も南極も嫌いで、なまぬるい温帯が好きなんだから。熱帯ならなおいいかも知れないが、そんなのは一寸手が届かない形でね。」
温帯というのは、素人《しろうと》とも玄人《くろうと》ともつかない女給仕《ウェートレス》連中のことだった。
そして実際彼女等のうちには、特殊な意味で深く周平の心を惹きつける者が一人居た。
三十一
電車道から奥へはいってる
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