包んでくれた。そして彼は、ただ現在の生をのみ慈《いつく》しむ涙ぐましい心を懐いて、袷の肌にも寒いほどの夜更けに、火種さえない下宿の四疊半へ、ぼんやり帰っていった。薄い布団にくるまって寝るのまでが、却て天の恵であるような気がした。
然し翌朝になって、鋭くはあるが妙に弱々しい日の光りで、自分の姿がまざまざと照らし出されると、それが堪らなく淋しい感じがした。そして次の月曜が来る頃までには、自分でどうにも出来ない捨鉢な気持に陥っていた。それを、保子は平然として身近く引きつけて離さなかった。
彼の頭には時々理智の閃きが過《よぎ》った。――保子からいい加減に弄《もてあそ》ばれてるのではないかしら? ――保子は、敢て多少の危険を冒してまで、自分を吉川の轍から救おうとしてるのではないかしら? ――或は、保子自身も自分と同じ心の苦闘をしてるのではないかしら?
そして右の仮定は、初めの二つが余りに苦々《にがにが》しいものであると共に、後の一つは余りに自惚れすぎた胸糞のわるいものだった。彼はその間の去就に迷った。さりとて、保子と顔を合してみると、その点を突き込んでゆく勇気はなかった。
彼は隆吉の方へ
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