が、堪えられないような気がした。金入の底に皺くちゃな五十錢紙幣が六七枚残ってるのを幸に、眼についたカフェーに寄って、ウイスキーを五六杯のんだ。髪を長く伸ばした着流しの客が一人居るきりで、電燈がついたばかりの室の中は静かだった。女給仕と何かひそひそ話し合ってる客の方に背中を向けて、彼は壁の面をじっと見つめた。
 それが、彼の気持へぴたりときた。
 ぶつかることがつきぬけることのように思っていた彼は、ぶつかってみて初めて、つきぬけられない壁があるのを知った。保子と隆吉との間にまごまごしてる自分は、やけに頭を壁にぶっつけてるのと同じだった。而も彼は、未だに保子を恋してるのかどうか自ら分らなくなっていた。
 酒に痲痺した頭で考えると、凡てが渦を巻いて入り乱れ、その渦が壁の中にすーっと吸い込まれて、じっと壁に面してる自分の姿のみが残った。それがしいんと静まり返った。息苦しくて恐ろしかった。自分の心が何処まで転々してゆくか不安だった。
 彼はカフェーを飛び出して、夜になった街路を長い間歩き廻った。闇黒のうちに点々と浮出してる街灯の光りと、酒の酔からくる悲壮な気持とが、凡てを夢のような惑わしのうちに
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