かしてるのではないか。今日だって彼女の方から変に絡んできたのではないか。――彼女は少し歪めがちに唇をきっと結んで、眉根に小さな皺を寄せている。すっと刷いた眉がいつもより殊に美しい……と思う自分の心に周平は自ら慴えた。
「もう何にも云わないで下さい。これから真面目な途を進みますから。」と彼は誓った。
「そう。」と保子は気の無さそうな返辞をして、何やら考え込んでしまった。
その意外な変化に、周平はまた驚かされた。そして次の瞬間には、頬の筋肉が硬ばって泣き顔になりそうなのを、じっと押し堪えた。頭の中がしいんと静まり返った。
隆吉が戻ってくると、彼は気分が悪いと断って、逃げるように辞し去った。じかに迫ってくる露《あらわ》な保子の眼付と、疑問を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]んだ変に鋭い隆吉の眼付とに、彼は更に脅かされた。
二十九
西の空に屯《たむろ》してる雲のために華かなるべき残照が遮られてる、ほろろ寒い佗しい秋の夕暮だった。周平は足を早めて下宿の方へ帰りかけたが、寂しいがらんとした自分の室が頭に映ると、今の苦しい心を其処へ持ち込むの
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