刺した。然し彼は真剣な応対をするのが恐ろしかった。強いて空嘯いてみた。
「さあどうですか。」
「それでいいと思ってるの。」
「身を捨ててこそ何とかいうこともありますから……。」
「井上さん!」
 保子はそう云って屹《きっ》となったが、唇をかすかに震わしたまま黙ってしまった。視線をちらと乱して、しまいにはそれを膝の上に落した。
「私は、」と周平は云った、「自分のことはよく分ってるつもりです。何にもごまかしてやしません。そして、お約束を立派に守ってゆく……守ってゆけるつもりでいます。」
「約束を守りさえすれば、他のことはどうでもいいというんですか。」
 まるで怒鳴りつけるような調子だった。彼には何で彼女が苛立ってるのか見当がつかなかった。黙ってると、彼女はまた云った。
「いつまでも過ぎ去ったことにこだわっていて、表面《うわべ》だけ平気な顔をしているのは、自分で自分をごまかしてるのと同じだわ。」
 周平は驚いて彼女の顔を見返した。――そういうごまかし方をしてるのは彼女の方ではなかったか。表面だけ平気な顔をして、彼を方々へ引張り廻しながら、内心では変に苛立ったり冷淡を装ったりするのは、自らごま
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