。保子が彼の方を覗き込んでいた。彼の眼にじっと眼を見据えながら、口元で微笑みかけた。
「いい人でしょう?」
「ええ。」と周平は答えた。
「すっかり好きになったっていう様子ね。」
 周平は何と云っていいか分らないで、ただ苦笑を洩した。そして、保子の後について座敷へ戻った。
「あなたは隆吉のお祖母さんに逢って嬉しかったでしょう。」
 座につくとすぐに、保子はそういう風に尋ねかけてきた。
「なぜです?」と周平は反問した。
「なぜって、ただそんな気が私にはするのよ。」
 揶揄するような眼が小賢《こざか》しく閃いた。かと思うと、彼女は急に真面目な調子に変った。
「あなたはこの頃大変隆吉と仲がいいようね。何を二人で長い間話してるの。」
「取りとめもないことをして遊んでるのです。」と周平は答えた。「大人《おとな》よりも子供を相手にしてる方が面白いと、そんな気特にこの頃なってきました。」
「それだけ?」
 何がそれだけ? なのか彼には分らなかった。じっと見返した眼付でその意味を尋ねた。彼女はそれを構わず先へ云い続けた。
「あなたはこの頃変に捨鉢な気持になってやしなくって。」
 その言葉はじかに彼の胸を
前へ 次へ
全293ページ中170ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング