く帰りかけると、もう遅いから泊《とま》っていらっしゃいと保子が云った。いや帰りますと彼は答えた。そんなら幾日に来て頂戴と保子は云った。その日に障子を張りかえるのだった。彼は約束通りにやって来た。女中達と一緒になって、障子の骨を洗ったり紙を張ったりした。庭の松の元気がなさそうなのを見ると、彼は自分からその青葉を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]りに来た。そのお礼に寄席へ連れて行かれた。横田と隆吉とを加えて四人で行った。帰りに彼は家の前まで送ってきた。お茶を飲んでいらっしゃいと無理に引入れられた。
然し彼は、夜遅くなっても決して泊っていかなかった。また、横田の所へ種々な人が集まる水曜には来なかった。
「水曜日にもちといらっしゃいよ」と保子は云った。
「いやです。」と彼は答えた。
「なぜ?」
問われてみると、なぜだか彼は自分にもはっきり分らなかった。
「なぜ厭なの。」と保子はまた尋ねてきた。
周平は一寸考えてから答えた。
「いろんな人が来て、芸術だの思想だのというような議論が出るから厭なんです。真の芸術家は芸術を論ぜず、真の思想家は思想を論じないものです。」
「だって真面目
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