た。然しこちらから訪れて行くのは憚られた。あの約束は、単なる約束として心に秘むべきもので、それに頼って図々しい行動に出てはいけないような気がした。
 保子からは何の便りもなかった。彼は次第に憂鬱な絶望のうちに陥っていった。
 所が、或る朝――周平が下宿へ帰ってから十日ばかりの後――保子の葉書がふいに舞い込んだ。
 その朝周平は、いつもの通り遅く眼を覚した。もう廊下向うの雨戸を明け放してあった。枕頭《まくらもと》には新聞が投げ込まれていた。彼は眼をこすりながら、その新聞を取ろうとした。すると、新聞の上から疊へぱたりと落ちたものがあった。一枚の絵葉書だった。松が二三本並んだ砂浜の向うに、大きな波を捲き返してる広々とした海があった。周平はそれを一寸眺めた。下の方に刷り込まれてる大洗《おおあらい》という文字が眼に留った。彼ははっとした。急いで表を返して読んでいった。

 其後どうなすったの。ちっともお出でがないのね。御病気じゃなくって。御病気だったら見舞に上るわ。御病気でなかったらいらっしゃいよ。隆吉も待ってますから。あなたに見せたいものがあるのよ。
[#地から2字上げ]横田保子

 周平は葉
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