解体す可きものである。なぜなら、勝利の後に労働者は、個人として小資本家になるか、或は団体として大資本家になるを以て、組合は畢竟資本家の組合になる運命にあるからである。この危機を救済せんがためには、財を個人もしくは個人の団体より解放しなければならない。換言すれば、所有の観念を根柢より覆してかからなければならない。――というのが大体の論旨らしかった。それに各国の労働組合の詳細な解剖が鏤めてあった。
周平には論の当否は勿論分らなかったし、詳細な点は文章の理解さえも困難だった。ただ、財を個人もしくは個人の団体より解放するということに、一寸気を惹かされた。然しその明瞭な観念は得られなかった。
彼は書物を投げ出し、自分自身をも疊の上に投げ出した。外にはしとしと雨が降っていた。梅雨のような陰鬱な雨だった。妙に物の輪郭がぼやけて薄暗かった。そして彼はいつのまにか、写し取った吉川の日記を又読み耽っていた。それに自ら気づくと、吉川と自分とが同一人であるような怪しい心の惑いが起った。
彼は立ち上って室の中をぐるぐる歩き出した。彼女に、保子に、もう一度逢いたかった。その晴れやかな張りのある声を聞きたかっ
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