と、彼女はいつもの通りの落着いた平静な顔をしていた。心もち見開いてる眼が、明るい外光を受けた睫毛の影を宿して、夢みるような美しさを持っていた。周平は眼を外らした。
 隆吉をも交えて三人で食事をする時、食後一寸茶の間に坐っている時、周平は顔を伏せて黙っていた。変な気持だった。間もなくこの家を出て行くのだと分っていながら、それが遠い未来のことのような気がした。保子は何とも云わなかった。
 周平は立ち上って二階の室を見廻してきた。庭の中を歩いてきた。新聞を隅から隅まで読んだ。――そういう自分の姿が、何だか図々しく自分の眼に映じた。
「もう帰ります。」と彼は云った。
「そう。」と保子は静かに云った。「でもまだ早いわよ。ゆっくりしていらっしゃい。」
 彼女が何と思ってるのか、周平には更に見当がつかなかった。前夜の約束がまた頭に浮んできた。じっとして居れなくなった。
「もう帰っても宣しいでしょう。」と彼はまた云った。
「ええ、今すぐよ。一寸待っていらっしゃい。」
 それでも彼女は落着き払っていた。やがて、女中が食事を済し後片付けをした頃、彼女は立っていった。すぐに戻ってきて、周平の顔をまじまじと見
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