周平は障子を開いて縁側に出た。
 外は一面に日が照りつけていた。蝉が鳴いていた。時々何処からともなく吹いてくる風に、木の葉が重々しく揺れて、それがぎらぎら輝くように見えた。庭の隅にある睡蓮の鉢に、緋目高《ひめだか》が二匹静かに浮いていた。鰭だけを気忙しなく動かしながら、いつまでも同じ処に浮いていた。
 井上さん、というような声がした。暫くするとまたはっきりその声がした。周平は目高から眼を離して、後ろを振り返った。保子が室の中から彼を呼んでいた。
「退屈しのぎに、隆吉へ何か噺《はなし》でもして下さいよ。」
「さあ……。」と周平は口籠った。
「どうせぼんやりしてるんだから、丁度いいじゃないの。」
「だって私は噺なんか一つも知らないんです。」
「神話みたいなものでも何でもいいわよ。」
 周平は何とも答えなかった。話してやるものかと心で思っていた。そしてじっとしていた。然しもう保子は催促しなかった。隆吉の枕頭に半身で寝そべって、雑誌の小説を読み始めていた。周平は暫く待った後、妙に心が苛立ってくるのを感じて、ぷいと二階へ上ってしまった。

     十九

 一人になって考えると、なぜ隆吉に対し
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