と、吾々の知ったことではない。」
 そして暫く黙っていた後で、荘一清は微笑を浮べていいました。
「それほど君が気にするなら、種明しをしてもよいが、実は、意外なところに策源地があるらしい。然し、そんなことよりは先ず、方福山の招待に応ずると、それをきめてくれなくては困る。それが大切な問題だ。」
「なぜだい。」
「なぜだか後で分る。とにかく、承知するんだね。」
 汪紹生は暫く考えてから、はっきり答えました。
「君に一任しよう。」
「じゃあ、行くんだね。」
「うむ、行くよ。」
「よろしい。……そこで、問題だがね。」
 荘一清は揶揄するような眼付で相手を眺めました。
「方家の招宴には、陳慧君も出るらしいよ。もっとも、これは君には無関係なことだがね……。」
 汪紹生は眼を大きく見開きました。
「なぜ陳慧君が出るらしいかといえば、柳秋雲が出るからだ。」
 汪紹生はちらと顔を赤らめ、眼を輝かしましたが、突然いいました。
「なぜ君はそんな持って廻ったいい方をするんだい。」
「愛情を尊敬するからだ。」
 それは、汪紹生の或る詩の中の一句でした。荘一清はその一句をいってから、楽しそうな笑顔をしましたが、汪紹
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