いんですよ。つまらないことを気にしてるんですね。」と荘夫人はいいました。
それでも、柳秋雲は悲しそうな眼色をしていました。そして此度は、荘夫人がいろいろ話をしてやらなければなりませんでした。
そうしたところへ、荘一清がとびこんで来ました。
「柳秋雲さんは、ちょっと僕達の方へ借りますよ。汪紹生も来てるんです。新新文芸のことで打合せをしたいんです。」
「まあ、なんですか、ぶしつけに……。」と荘夫人はたしなめました。
「ははは、若い者同士の方が話は面白いかも知れない。」と荘太玄がいいました。
それで荘一清は、黙って俯向いている柳秋雲を促して、室の外へ、そして庭の方へ出てゆきました。
庭の腰掛に、汪紹生は腕を組んで頭を垂れていました。彼は荘一清からの至急な迎えを受けて、図書館からやって来たのでした。柳秋雲の姿を見ると、彼はつっ立って会釈をしたきり、言葉は発しませんでした。柳秋雲も黙っていました。
「どうだった、気に入ったの。」と荘一清がふいにいいました。
「なんですの。」
「あれ……玩具さ。」
「ええ、素敵ですわ。今日は、そのお礼に参りましたの。」
「でも、よく一人で来られたね。」
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