て深い感銘を与えました。彼女の声は次第に高まって、美しい哀切なものとなりました。髪飾りの宝石が、耳の後ろでこまかく震えました。彼女の横顔に目立つ※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]のとがりは、ひたむきな心情を示すようで、そしてその頬のふくらみは、やさしい愁いを示すようで、それが一緒になって、母を思慕する歌調を強めました。
汪紹生が顔を伏せてるだけで、そして陳慧君が一座の空気を窺ってるだけで、人々は息をこらして、柳秋雲の上に眼を釘付けにしていました。呂将軍の眼もその時だけは生々とした色を浮べました。彼女はただ歌にだけ身も心も投げこんでるようでしたが、歌い終えると、やはり表情を押し殺した様子でちょっと会釈しましたが、そのまま、逃げるように足早く次の室にはいって行きました。
方美貞がすぐ立上って、彼女の後を追ってゆきました。
感嘆の吐息と声が洩れました。客の一人の中年の婦人は涙を拭きました。そして柳秋雲と方美貞とが戻って来ないのをきっかけに、よい工合に食卓は見捨てられることになりました。
次の広間の片隅に、麻雀の一組が出来ました。方夫人と陳慧君と、歌のあとで涙を拭いた中年の婦人
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