はっはと笑いました。
陳慧君はもう、そばの方夫人に話しかけていました。
「蛸の足に、あのまるい、吸いつくものが、沢山ありますでしょう。あれだけを取って、干し固めましたものを、奥地の特別な蔓だといって、アメリカの水兵さん達に食べさしていた家が、上海にありましたよ。大変繁昌しておりました。」
方夫人はただうなずいて聞いていました。同席してる娘の方美貞は女学生風の快活さで、柳秋雲になにか囁いていました。ただ陳慧君だけが、女のなかでは一人、全席の話題の中心にも言葉を出すのでした。
陳慧君の存在は目立ちました。彼女と方福山との関係は、方夫人にも既に公然と承認されてるようでしたが、そういうことを別として、社交に馴れてる彼女の挙措応対は、その敏活な眼の動きと、血の気の少い白く澄んだ皮膚と共に、品位は乏しいが人目を惹くものがありました。彼女はしばしば高賓如の方へ言葉をかけました。高賓如は簡単な返事だけをしておいて、おもに隣席の荘一清と話をしました。古典や近代文学にも彼は少しばかり知識がありました。
汪紹生は殆んど口を利きませんでした。時々柳秋雲の方を眺めました。柳秋雲は無口でつつましくしていま
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