ことになりました。
陳慧君はその店の奥に秘蔵してる書画のことで、また方福山を通じて、荘家とも誼みを結んでおりました。そして或る時彼女は、荘夫人の前に、恰も懺悔でもするような謙虚な調子で、自分の頼りない身の上を歎き、これまでの軽薄な行動を悲しみまして、次に柳秋雲のことを持ち出し、由緒ある家柄の憐れな孤児だが、彼女を立派に育てるのが衷心の願いであるといって、荘家の淳良な家風のなかで暫く彼女を教養して頂きたいと頼みました。それから彼女は声を低めて、ひそやかにいいました。
「こちら様が市公署の方を御引受けになりますれば、いろいろ人手も御入用でありましょうし、秋雲を女中同様に使って頂きとうございます。また私としましても、あの子を御手許に預けておきますれば、安心して当分上海で過すことが出来ます。」
その頃、市長が或る事で引責辞職しまして、後任には、徳望高い荘太玄を引出そうという運動が起りかけていました。また陳慧君の方は、なにか政治上の秘密な役目を帯びてという説もありますし、阿片密輸に関係あることが現われかけたからという説もありますし、両方を一緒に結びつけた説もありますが、当分の間上海に行くこと
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