の葉を一枚取って来た。榎の木影に穴を掘って、水をくみ入れた芋の葉をその中に据えた。それから稲田の水口を見て廻った。鮒の子が幾つも泳いでいた。抜足してそっとはいり込んで、水草の影に隠れたのを押えようとすると、指の下からするりと逃げてしまった。幾度も失敗した後に、可なり大きなのを一匹捕えることが出来た。それを両の掌の中に持ちながら、榎の下まで馳けてきて、芋の葉の水の中に放った。そしてまた出かけていった。
鮒の子三匹と鯰の子一匹とで、平助は満足した。芋の葉にとろりとたまった水の中で、それらの小魚が泳ぎ廻るのを、彼は珍らしそうに眺め入った。それから立上って太陽を仰いでみた。おみつ[#「みつ」に傍点]がやって来るにはまだ早かった。彼は芋の葉の上に木の枝を被せて、開墾しかけた処へ戻っていった。
熱い大気が重くのろのろと流れていた。蝉の声と小鳥の鳴声とがぱったり止んでしまうような、蒸し蒸しする静かな瞬間があった。それでも、拓き残されてる荒地には、草木が茂り虫が飛び小さな花が咲いており、去年から開墾された水田には、水がぬるみ稲が青々と育っており、開拓されたばかりの地面は、黒々とした肌から陽炎を立て
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