土地
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)温《ぬる》み
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)彼|独自《ひとり》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]される
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鬱陶しい梅雨の季節が過ぎ去ると、焼くがような太陽の光が、じりじりと野や山に照りつけ初めた。畑の麦の穂は黄色く干乾び、稲田の水はどんよりと温《ぬる》み、小川には小魚《こうお》が藻草の影に潜んだ。そして地面からまた水面から、軽い陽炎《かげろう》がゆらゆらと立昇るのを、蒸し暑い乾いた大気は呑み込んで、重くのろのろと、何処へともなく押し移ってゆき、遠い連山の峰からは、積み重り渦巻き脹れ上る入道雲が、むくむくと頭をもたげてきた。
重苦しい真昼の静寂が大地を蔽っていた。埃で白い街道の上には行人《こうじん》の姿も見えなかった。街道は村落の間をぬけて、平野の上を真直に続いていた。一方が水田に他方が畑になって
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