いて、流れのゆるやかな水の深い小川の石橋を越すと、所々に小松や灌木の生えた荒地の中に分け入り、それから野の彼方に消えている。
 荒地の中には、まばらな小松や灌木の間に、低い荊棘《いばら》や茅草が茂っていて、小さな花がぽつりと咲いていたりする。その片隅で、平助は鍬の柄を杖に腰を伸して立上った。
「夕立が来なけりゃええがなあ。」
 独語のように呟かれたその声を小耳にはさんで、音吉は鶴嘴を投り出して立上った。
「なあに来るがええよ。凉しくなってええ。一降りざあーっと来なくちゃあ、暑くてとてもやりきんねえ。」
 額の汗を前腕の袖で拭きながら、彼は親父の方をじろりと見やった。
「仕事が後れるじゃねえか。」
「少しくれえ後れたって何でもねえや。こんなに広い荒地だもの。身体でも痛めちゃあつまんねえ。」
「若えくせして、意気地のねえことを云うんじゃねえよ。」
「それでも、一体《いってえ》いつになったらこれが済むことか、分りもしねえからな。」
「仕事のあるうちがええんだ。」
「だがこんな仕事つまんねえな。」
「何がつまんねえ? このままにしておきゃあ、何の役にも立たねえ荒地だ。それをこうして拓《ひれ》え
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