麦稈帽子をかけてやり、きょとんとした顔付で、また仕事の方へ戻った。

 朝日の光が静に照っている時、平助は荒地の上に屈んで、昨日から幾度も見た音吉の手紙をまた読み返した。それには、家を逃げ出した詫びやら、製糸工場の有様やら、町のさまざまな娯楽のことなどが、平仮名ばかりで書いてあった。少し金を送れるようになるまで手紙を書かないつもりだったが、その金の目当もほぼついたから……、とそんなことも書き添えてあった。
「うめえこと云っておらを瞞《ごま》かそうとしてやがる。……畜生、何で許すもんか。」と平助は口の中で呟いた。それでも彼は手紙を、大事そうに襯衣《シャツ》の隠しにしまった。
 その半日、彼はいつもより力強く働いた。額から流るる汗を泥にまみれた手の甲で払った。
「おらが力でやってみるだ!」
 そして満足そうに煙草を一二服吸った。それからまた音吉の手紙を取出して、一通り読み返したが、忌々しそうに眉根をしかめながら、それでもやはり大事そうに襯衣の隠しにしまった。
 そのまま彼はじっと考え込んだが、暫くすると急に立上った。街道を越した向うの方に、里芋の畑が見えていた。彼は其処まで行って、大きな芋
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