みつ[#「みつ」に傍点]は古蚊帳の切端で作って貰った手網で、それらの小魚をしゃくったり、野の中で花を摘み集めたり、蝉の脱殻を探し廻ったりした。
おみつ[#「みつ」に傍点]が余り遠くへ行くと、平助は伸び上って呼んだ。
「みつ[#「みつ」に傍点]う、みつ[#「みつ」に傍点]う。」
何度も呼ばれてから漸くおみつ[#「みつ」に傍点]は戻って来た。
「余り遠くに行くでねえぞ。虫に螫されたり怪我したりするといけねえからな。おらが近くで遊ぶんだ。」
「お父つぁんは仕事ばかりしてるから、おらつまんねえもの。」
「よしよし、あとで大きい鮒をとってやるだ。」
然し彼はなかなか仕事の手を休ませようとはしなかった。おみつ[#「みつ」に傍点]は遊び疲れ、退屈に疲れると、彼が掘り起した草木の根を運んで、少し手伝おうとした。
「お前がそんなことするんじゃねえ。」と平助は叱りつけた。「あっちで遊んでろ。」
おみつ[#「みつ」に傍点]はどうしていいか分らないで、顔を脹らましながら、荒野の中に一本聳えてる榎の木影に屈んだ。やがては其処に寝そべって、いつしかうとうとと眠った。
平助はやって来て、彼女の寝顔にそっと
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