りの達人の日笠が竝んで進んでいった。その中にはおかね[#「かね」に傍点]も交っていた。見覚えの[#「おかね[#「かね」に傍点]も交っていた。見覚えの」は底本では「おかねも交っていた。見[#「。見」に傍点]覚えの」]彼女の笠が他の人達から後れやしないかと、平助は時々伸び上って眺めた。然しおかね[#「かね」に傍点]は男にも負けない働き者だった。
 男達が一寸煙草を一服する間に、彼女は急いで父の所へやって来た。
「お父つぁん、疲れやしねえか。」
「なあにおらあこの年まで鍛えた身体だ。それよかお前こそ若えから、ゆっくりやるがええぞ。」
「ああゆっくりやってるだ。」
「じゃあええから、早う向うに行けよ。」
 平助は彼女を来るとすぐに追いやってから、俄に荒々しい眼付で荒地の上を見廻した。
「おらが生きてるうちに、この荒地を拓えてやるだ。」
 そして彼は力強く鍬の柄を握りしめた。

 稲田の初番の草取りが終ると、急に荒地の附近には人の姿が見えなくなった。畑の麦はもう刈り取られ、田の稲は伸び伸びと育っていた。村の人々は何処へか、他の処へその労働を移していた。ただ平助だけは、毎日同じ荒地を開墾し続けた。
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