て、頼まれればいつでも日傭稼ぎに出かけていった。ただ晩飯は向うで食って来ないで、早めに戻って父とおみつ[#「みつ」に傍点]と三人一緒に食べた。その上彼女は、日傭稼ぎに出ても、合間を見ては父の側にやって来ることが出来た。
丁度稲田の初番《しょて》の草取りの時期になっていた。村の者達は幾人か連れ立って、手甲脚絆のいでたちで稲田へ出かけてきた。平助が去年から拓いた稲田にも、そういう人達が野田の旦那に傭われてやって来た。
「この荒地は肥えてると見えるな。稲が青《しげ》りきってるだ。平助どんの骨折り甲斐だけあらあな。」
「なあに、みんなしてよく肥してくれるからだ。」と平助は答えた。
「いや地体が肥えてなきゃあ、こうした稲の色は出ねえよ。」
「色だけじゃ仕様がねえ。」
「いやそうでねえよ。初作《はつざく》とは思えねえくれえだ。これで二年三年となりゃあ、立派な一等田だ。」
そうかも知れねえ、と平助は思った。仕事に疲れると鍬の柄を杖に佇みながら、喜ばしげな眼付で稲田を見やった。実際その開墾地の稲田は、稲の株の張り方は遅かったけれど、伸びがよくて黒ずんだ勢のいい青さを呈していた。その間を賑かに、草取
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