小石が無くなると、ぬぎ捨てておいた下駄を片手にさげ、片手を前帯の間につっ込みながら、真直に村の方へ帰っていった。

 翌日朝早くから、また平助の姿が荒地の上に見え初めた。彼は自分で鶴嘴を使いまた鍬を使った。おかね[#「かね」に傍点]が時々鎌を下げてやって来た。背の高い灌木や大きな木の切株を自家の薪に、美しい草を野田の旦那の馬の飼葉に、自分で刈って運んでいった。
「お父つぁん、おらにも鍬を執らしてくれよ。」と彼女は云った。
「お前は日傭稼ぎをした方がええだ。」
「だっておらあ、お父つぁんの側で働きてえだもの。」
 彼女は甘えるような眼付で父の顔を見上げた。然し平助は見向きもしなかった。
「いやいけねえよ。こんな仕事は女っ子のするこっちゃねえや。」
「じゃあお前一人ですっかりやるつもりだか。」
「そうだ、おら一人でやるだ。音の馬鹿が逃げ出しちまやあ、もうおら一人の仕事だ。」
「ほんとにやれるけえ。……無理しちゃいけねえがなあ。」
「おらの仕事だもの、おらがするだ。」
 おかね[#「かね」に傍点]は[#「 おかね[#「かね」に傍点]は」は底本では「おかね[#「かね」に傍点]は」]それきり諦め
前へ 次へ
全25ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング