太陽の光が輝いた。空には雲雀の声が聞え、樹梢には蝉が鳴き立った。凡てが清く輝かしかった。木も草もその一つ一つの葉末に、水滴が美しく光っていた。
 その時、村を出て街道をやってくる平助の姿が見えた。驟雨に洗い出された道路の砂利の上を、少し腰を曲げ加減にゆっくり歩いてきた。
 彼は荒地の中にはいって行き、開墾されてる地面の側に佇んだ。尻端折った着物の下から覗いてる両脛が、妙にひょろひょろと細く、肩のあたりが頑丈に角張っていた。やがて彼は其処に下駄をぬぎ捨てて、開墾地の中に踏み込んだ。柔い黒い土地の上には、雨に叩かれて飛び出てる小石が幾つもあった。彼はそれを一々拾い上げては、草木の根の小高い塚の方へ投げやった。土をふるい落されて幾日も日に輝らされたその草木は、堆く積まれたまま枯れかかっていた。
 平助はふと物に慴えたように立上って、あたりをぐるりと見廻した。湿った大地に強い日の光が照りつけていて、水蒸気が静に立昇っていた。田にも畑にも街道にも、人影一つ見えなかった。村落の森はひっそりと静まり返っていた。
 平助は暫くぼんやり立っていたが、また腰を屈めて小石を拾い初めた。そして大凡見えるだけの
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