顔をして、また足を早めた。
荒地の側を通る時、掘り返し積み捨てられた草木の塚を、灌木の茂みの彼方に認めて、彼はふと足を休めた。それからやがて、ふらふらと荒地の中に歩み入った。草葉の露が彼の紺足袋を濡らし、着物の裾を濡らした。野をつき切るとすぐに、昨日まで彼と彼の父とが開墾してきた地面があった。夜のうちに湿気を受けた土地は、健かな黒々とした肌を展べて、茅草の長い葉が青々と蘇って、真直にすいすいと出ていた。
音吉は懐手のまま其処に佇んで、暫くじっと考え込んだ。朝靄が地面に低く匐い流れて、稲田のほのかな匂いが漂っていた。村落の森はまだ夜気に黝んでいたが、何処からともなく小鳥の声が響いてきた。
小鳥の声の合間に、遠く口笛の音がした。音吉は我に返って耳を澄した。口笛の音はすぐ近くに響いた。目籠をかついで街道をやってくる専次の姿が見えた。
音吉は我知らず、両の拳を握りしめ眼を見据えたが、すぐに苦笑を洩らして、荒地を横切って街道の上に出た。そして専次を待ち受けた。
専次は喫驚した眼を見開いて、音吉の姿をじろじろ見廻した。
「早えな。」と音吉は声をかけた。
「草刈りに出ただ……。一体お前はそ
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