物を着直し、新聞などに眼を通してるうちに、もう正午となる。そこでひどい粗食をこそこそと済す。子供の面倒をみる。押入や戸棚の中を掻き廻す。時には裁縫の道具を手にする。それから夕食の料理に頭を悩ます。良人の帰りを待つ。だらしのない長時間の夕食をする。気乗りのしないぼやけた心で、良人の無駄話に耳をかす。子供の世話をやく。退屈になって、うとうと居眠りをしたり、ぼんやり雑誌をめくったりする。時間がいつのまにかたって、もう寝なければならない。――そういう日々が、その他いろんなこまかなことのごたごたした日々が、同じように無際限に繰返される。
 そういう彼女等のこまかな、ごたごたした仕事を概約すれば、家政と育児との二つになる。
 然るに、彼女等の家政なるものは、全くの機械的な働きに過ぎなくなっている。幾許かの材料の配合と調理の仕方とを、永久に繰返す料理、四季の変化は多少あっても、毎日殆んど同じような掃除や買物、そしてそれらのことが、良人から与えられる毎月一定の金額から、少しもはみ出してはいけないのである。結婚当初こそ多少の興味はそそられても、やがては無味乾燥な機械的な働きに堕してしまう。一定の範囲内に
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