都会に於ける中流婦人の生活
豊島与志雄
都会に於ける中流婦人の生活ほど惨めなものはない。彼女等の生活は萎微沈滞しきっている。――勿論茲に云うのは、既婚の中流婦人の大多数、僅かな例外を除いた全部を指すのである。
下流の婦人等の生活はまだそう悪くはない。少くとも彼女等は働いている。何かしら糊口のために仕事をしている。如何なる粗食と粗服と陋屋とを余儀なくされても、なおその生活には張があり力がある。朗かさや明るみには欠けていても、鈍重な活力を失わないでいる。
何かの仕事をするということは、働くということは、人の精神にも肉体にも、健かな光と力とを与えるものである。生きてる――生活してる――という意識は、ただ働くことから得られる。働くことを知っている者は、如何なる困苦の中にあっても、常に活力を失わない。この意味で、下流の婦人等の生活は全然救われざるものではない。
上流の婦人等の生活はまだそう悪くはない。少くとも彼女等は生を享楽している。何かしら楽しんでいる。虚偽や虚飾や中身の空疎などはあろうとも、なおその生活には晴々とした明るさがある。
生の安楽ということは、明るい光を失わない限り、そ
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