いものだったというだけで、取り止めもない断片的なもののようでもありましたし、筋の通った連続したもののようでもありました。それは大きな空虚の中の飛翔でした。大空を飛行機で飛ぶのにも似ていて、ただその航空が心の深淵のなかで行なわれたとでも言うべきでしょうか。
その瞑想からさめると、もう酒の酔いもほぼさめていましたし、服も乾きかけていました。元彦はなにか皮肉な微笑を浮べ、次で晴れやかな笑顔になりました。そして落着いた足取りで家の方へ戻ってゆきました。
正木の籬の柔かな葉を一枚さぐり取って、彼は笛を吹きました。家の土間にはいると、その葉を捨てて、ちょっと立ち止りました。
そこの、長火鉢のそば、電燈の明るみの中に、女たちが寄り集っていました。母は背をかがめて、火鉢の火に見入っていました。八重子はりりしく顔を引きしめて、宙に眼をやっていました。加代子はハンカチを顔にあてて、泣いていました。重兵衛のところの婆さんが、三人をかわるがわる見比べるようにして、ひそやかに何か話していました。
それが、元彦には、初めて見出した珍しい情景とも感ぜられました。母の様子もいつもと違い、八重子の様子も平素に似
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