渡舟場
――近代説話――
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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東京近くの、或る大きな河の彎曲部に、渡舟場がありました。昔は可なり交通の頻繁な渡舟場でしたが、一粁あまりの川下に、電車が通じ橋が掛ってから、すっかり寂びれてしまいました。附近の農家の人たちが時折利用するだけで、船頭は爺さんだし、舟も古びたものでした。
この渡舟場のそばに、田舎にしては小部屋の多いちょっと洒落た平家がありました。正木の籬をめぐらし、梅の古枝が交叉し、五本の棕櫚が屋根よりも高く葉を拡げていました。昔はこれが、渡舟場の休憩所でもあり、ちょっとした飲食店でもあり、客を宿泊させることもありました。渡舟場が寂びれるにつれて、この家も空家同様になり、船頭の爺さん夫婦が一隅に寝泊りしていました。
ところが、戦争末期、東京が空襲に曝されるようになってから、岩田の母と娘が東京から疎開して来ました。次で、川原一家
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