集められました。提灯が幾つもともされました。重兵衛爺さんはまた舟に飛び乗りました。他のも一つの舟にも人が飛び乗りました。そして河中と両岸と、互に呼び交わしながら、人々は徐々に川下の方へ、電車の鉄橋のあたりまで、岩田元彦を探してあるきました。
 その頃、岩田元彦はずっと川上の方にいました。
 水中に没して、彼は全くの一人きりになりました。一人きりでちょっともぐっていて、それから泳ぎました。水練の達者な彼は、服のまま岸へ泳ぎつきました。岸に立つと、ひどい寒さを感じました。上衣の水をしぼり、靴の水をあけました。それから土手の上を川上へと歩きました。寒いので駆けだしました。竹藪がありまして、竹の小枝の枯れたのが積んでありました。元彦はポケットのライターをさぐりました。それから水辺の低地を物色して、竹の枯枝を熱心に運び、火をつけました。火は気持よく燃えてあたりを輝らし、空をぽっと染めました。元彦はその火に温まりながら、天涯孤客の心境にあって、瞑想に沈みました。酒の酔いの中での瞑想は、しんしんと深まってゆきました。
 その瞑想がどういうものであったかは、彼自身もはっきり覚えてはいません。ただ深い深
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