けば、あとは流れのままです。重兵衛爺さんは馬の溺れたことを話していました。
「……泳げるくせに、慌てたもんだから、水ん中に頭を突っこんでさ、もうそれっきりよ。手綱でもって、頭を水の上に引きあげてくれる者が、いないとなりゃあ、自分で頭をあげるだけのことだ。それを忘れたもんだから、あのでかい頭が、下へばかり沈んでゆく。馬のうちにも、泳ぎを知ってるのと、知らないのと、二通りあるらしいよ。」
加代子は眉をひそめてそれを聞いていました。中村佳吉は興がって話の相手になっていました。元彦はもう周囲のことに何の関心もなく、じっと河の面を眺めやっていました。
――丁度、このような彎曲部であった。ぼんやりした闇夜だった。中程まで進出すると、対岸にぱっと閃光が起った。閃光は数を増して、弾丸が上空を飛んだ。その時、迂濶にも、こちらから二三発応射した卑怯者があった。対岸には一時に閃光が連った。ヒュンヒュンと頭上を掠め飛ぶ弾丸は、まもなく、シュッシュッと身近かに迫り、水煙りを立てるようになった。やがて、大きい奴が上空からも落ちてきた。シュルシュルッという不気味な音は、場所の見当がつかなかった。その一つが、頭上
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