子を、提灯の淡い明りで、元彦はじっと見つめて、頬の肉をへんに歪めながら言いました。
「もうくよくよするなよ。これからはいつも俺が、側についていてやる。」
八重子はふっと涙ぐんで、その涙を隠すかのように家の中にはいりました。
曇った夜で、妙になま暖く、霧がかけていました。
元彦は酔って足許がふらついていました。提灯を持ってる中村佳吉の、和服にマントをひっかけた肩へ、よりかかるように手をかけました。
「おい、中村、闇商売の仲つぎなんか止せよ。」
「うん、やめることにしてるよ。」と中村は素直に笑顔で答えました。
「よろしい。だが、そんなことを続けたら、いつまでたっても八重子はお前にやらんぞ。妹だが、子供のような、そして大人のような、えたいの知れないあのちっちゃな魂に、俺は惚れこんじゃった。妹でなかったら、俺は八重子と結婚する。そしたら、お前は加代子と結婚しろ。なあ、加代子、加代ちゃん、君は中村を嫌いじゃなかろう。好きだって言え、好きだって……。」
加代子は中村の方を顧みて囁きました。
「ずいぶん酔ってるのね。」
それを、元彦は引き取りました。
「なに、酔ってるって、ばかを言うな。真
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