す。一生行いをつつしみます。ほんとに許して下さい。私を村人達の前につき出してもあなたには何のもうけにもならないでしょう。そのかわり私を許して下されば、何でも望み通りのものを差し上げます」
 天狗が泣きながらそう言うのを聞いて、爺《じい》さんはなるほどと考え込みました。天狗を村人達の前につき出したところで、自分の利益には少しもなりません。それよりも、何か素晴らしいものをもらって、許してやった方がましです。その上、天狗はもう一生悪いことをしないと言ってるのです。
「それでは許してやってもよい」と爺さんは言いました。「だが、許すかわりに、この羽うちわをくれるか」
 それには天狗も弱りました。羽うちわがなければ天狗の役目がつとまりません。いろいろ懇願《こんがん》したあげく、二里四方も利《き》くという鼻を譲《ゆず》ってやることに相談がきまりました。
「ただこんな上等の鼻をもらったからといって、欲を出してはいけません」と天狗は言いました。「欲張ったことをすると、鼻を取り上げますから、そのつもりでおいでなさい」
「よいとも」と爺さんは承知しました。
 そこで、大天狗は縄を解《と》いてもらって、羽うち
前へ 次へ
全16ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング