天狗の鼻
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)肥沃《ひよく》な

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一家|揃《そろ》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そろええて[#「そろええて」はママ]
−−

      一

 むかし、ある所に大きな村がありました。北に高い山がそびえ、南に肥沃《ひよく》な平野がひかえ、一年中暖かく日が当って、五穀《ごこく》がよく実り、どの家も富み栄えて、人々は平和に楽しく暮らしていました。
 ところがこの村に、不思議なことが起こってきました。夕方たんぼから帰ってきて、いろんなごちそうをこしらえて、一家|揃《そろ》って楽しい食事をしようとしますと、どこからかふいにひどい風が吹いて来て、ランプやろうそくの火を消してしまいます。急に家の中がまっ暗になったのに、皆びっくりして、大騒ぎをしてからあかりをつけますと、まあどうでしょう、今までお膳《ぜん》の上に並んでいたごちそうが、一つ残らずなくなってるではありませんか。――そういうことが、毎晩どの家かに必ず起こってくるのです。
 村の人達
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