した。
「許して下さい。わしが悪かったのです。許して下さい。もう決してごちそうをさらったりなんかしませんから。わしはもとからの悪い天狗ではありません。この姿の通り大天狗で、大勢《おおぜい》のからす天狗を家来《けらい》に持って、立派な行いをしていました。ところがわしは、生まれつき鼻がよく利《き》いて、二里四方くらいは何でもかぎわけられるのです。ある時、山の奥から村近くへ出て来ると、人間のこしらえてるごちそうの匂《にお》いがして、それを食いたくてたまらなくなったのです。そして一度盗み食いをしてみると、うまいのうまいくないのって[#「うまいのうまいくないのって」はママ]、もう木の実を食ったり霞《かすみ》を吸ったりしているのが馬鹿らしくて、ごちそう泥坊《どろぼう》になってしまったのです。ところが今あなたに縛られてみると、初めて夢からさめたような心地《ここち》になって、自分の悪いことがしみじみわかりました。これからはつまらない欲なんか起こさないで、山の奥に戻っていって、大天狗《だいてんぐ》に恥じない立派な行いをします。どうぞお慈悲《じひ》に許して下さい。許してさえ下されば、何でもお望み通りにしま
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