わを拾い上げて、それで爺さんの低い鼻を三度あおぎながら、何か口の中で唱えますと、爺さんの鼻はみるみるうちに高くなって、二里四方のものが何でもかぎ分けられるようになりました。爺《じい》さんがびっくりしてるうちに、天狗《てんぐ》は羽うちわをはたはたとやりながら、宙に飛び上がって、どこともなく立ち去りました。
 爺さんは天狗の鼻をもらって、うれしくてたまりませんでした。夜が明けると、すぐに表へ飛び出しました。村の人達は、大天狗と同じような爺さんの鼻を見て、驚いたの何のじゃありません。そして、猩々爺《しょうじょうじい》さんを今度は天狗爺さんと呼ぶようになりました。

      三

 さて天狗爺さんは、大天狗からもらったまっ赤な高い鼻をうごめかして、自分の貧乏な家にじっと坐っていますと、まあどうでしょう。二里四方のものが何でも、眼に見るようにかぎわけられるではありませんか。どこにどんな花が咲いているかもわかれば、どこにどんなごちそうが出来てるかもわかれば、どこにどんな酒があるかもわかります。爺さんは家にじっと我慢《がまん》してることが出来ませんでした。晩になるとのこのこ出かけていって、村で一
前へ 次へ
全16ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング