番ごちそうのある家へやって行きました。村人達はもう天狗が来ないことを知って、いつもより見事なごちそうをこしらえていたのです。
「今晩は」と言って爺さんは入って行きました。
「やあ天狗爺さんですか。あんたのおかげでこんなごちそうを食べることが出来るようになりました。まあお祝いに食べていって下さい」
そう言って、どの家でも爺さんをもてなしました。
爺《じい》さんは大得意でした。それからというものは、昼間はいい香りのする花を取りに出かけ、それを売って大変お金をもうけ、晩になると、立派なごちそうやうまい酒のある家をかぎつけて、そこでたらふく飲み食いしました。いくら飲み食いしたって、たかが老人一人ですから、そうたくさんではありませんので、村人達はいつも快《こころよ》くもてなしてくれました。それにまた爺さんは、村から天狗《てんぐ》を追い払った大恩人ですもの。
そのうちに爺さんは、花を売ったお金はどしどしたまってくるし、ごちそうや酒にはあきてくるし、何だか退屈《たいくつ》でつまらなくなってきました。この上は何か素晴らしいものが、まだ見たことも聞いたこともないようなものが、どこかにありはすまいか
前へ
次へ
全16ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング