くに火をつけました。そしてひょいと見ると、まごうかたなき大天狗が眼の前に立ってるではありませんか。頭に兜巾《ときん》をかぶり、緋《ひ》の衣《ころも》をつけ、手に羽うちわを持って、白い髯《ひげ》の生えかぶさった赤い顔に、高い鼻をうごめかし、金色の眼を光らして、にこにこ笑っているのです。爺さんはその威光《いこう》に打たれて、平伏《へいふく》してしまいました。
「お前は感心な奴だ」と大天狗は言いました。「酒までたくさんそろええて[#「そろええて」はママ]くれた志《こころざし》に免《めん》じて、今晩はお前の家で酒盛《さかも》りをするとしよう」
その言葉を聞いて、爺さんは元気づいてきました。そしてこの猩々爺《しょうじょうじい》さんと大天狗とは、夜通し酒盛りをすることになりました。
爺《じい》さんは猩々《しょうじょう》とあだ名されてるくらいの酒のみですし、天狗《てんぐ》はまた名高い酒好きなものですから、ちょうどいい相手でした。けれどそのうちに、二人とも酔っぱらってきました。天狗を酔いつぶさせるために爺さんが苦心してこしらえた料理ですから、豚肉の串焼《くしやき》の中にも、雉《きじ》の肝《きも》の
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