り》をいくつも並べ、ろうそくを何本もともして、天狗が来るのを待ち受けました。
しばらくたちますと、例の不思議なことが起こりました。雨戸《あまど》もすっかり閉め切ってあるのに、家の中に強い風が起こって、ろうそくの火が皆一度に消えて、まっ暗となりました。爺《じい》さんはそれを待ち構《かま》えていたのです。すぐに大きな声で言いました。
「天狗《てんぐ》さん、いよいよ来ましたね。私はあなたが好きで、この通りごちそうして待っていましたよ。どうかさらって行かないで、ここで食べていってくれませんか。私はあなたが大好きだから、一緒に一杯やりたいと思って、酒まで買っておきましたよ」
「本当か?」とだしぬけに、どら声が闇の中から響きました。
「本当ですとも、本当ですとも」と爺さんは大喜びをして答え返しました。「私は決してあなたに悪いことをしようなどと、そんな考えを持ってやしませんよ。私はあなたみたいな人が好きですよ。大変なごちそうをこしらえてお待ちしてたんです。一緒に飲んだり食ったり歌ったりしましょうよ。まあお待ちなさい。私はまっ暗な中では眼が見えませんから今ろうそくをつけます」
爺さんは急いでろうそ
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