んなことをしましたが、何の役にも立たないで、毎晩どの家かでごちそうをさらわれてばかりいました。

      二

 ところがこの村に、たった一人のなまけ者がいました。ひとり者の爺《じい》さんで、お金があれば酒ばかり飲んでいて、貧乏なくせにいつものらくらして遊んでいました。大変酒好きなので、猩々《しょうじょう》というあだ名をつけられて、あまり人から相手にされませんでした。
 この猩々爺《しょうじょうじい》さんが、天狗のことを聞いて、どうか自分が引っ捕《とら》えて皆をあっと言わしてやりたいものだと、酔っぱらいながら頭を振り振り考えていますと、酒が手伝ったせいか、素敵《すてき》なことを考えつきました。そしてはたと額《ひたい》を叩きました。
「しめたぞ! もう天狗は俺のものだ」
 爺さんは懇意《こんい》な家へ行って、お金をたくさんもらってきました。肉や鳥や酒を、うんと買い込んできました。酒はことに強いのを選びました。そしてひる頃から夕方まで骨折《ほねお》って、それは実に見事なお料理をこしらえました。夕方|薄暗《うすぐら》くなると、大きなお膳《ぜん》の上へごちそうを飾り立て、強い酒の徳利《とく
前へ 次へ
全16ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング