が、向こうは大勢です。かわるがわる追っかけて来るのですから、彼はへとへとに疲れました。息が切れて走れなくなりました。頭や背中には石を投げつけられて怪我《けが》をしました。この上|捕《つか》まったら、どんな目にあわされるかわかりません。彼は下駄をぬぎ捨て、着物をもぬぎ捨てました、そしてまっ裸で逃げました。身体《からだ》だけは誰にも見えないものですから、ようよう橋の下まで戻って来ることが出来ました。
 彼はもうどうすることも出来ないで、裸の上からむしろをかぶって、がたがた震えていました。頭や背中の傷からは血が流れ出し、それがずきずき痛んで、身動きをすることさえ出来なくなりました。
 今度は五右衛門も、まったく閉口《へいこう》してしまいました。夜になると、痛みと寒さとで今にも死ぬような思いをしながら、橋の上まではい出してきまして、ポンポンポンと手を三度|拍《たた》きました。
 白髯《しろひげ》のお爺《じい》さんがひょっこり出て来てにこにこ笑っています。五右衛門は泣かんばかりに願いました。
「もう術はいりませんから、どうぞ着物を一枚と食物を少し下さいませ。お願いでございます」
 すると、アハハ
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