泥坊
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)五右衛門《ごえもん》という

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この上|捕《つか》まったら
−−

      一

 ある所に、五右衛門《ごえもん》というなまけ者がいました。働くのがいやでいやでたまりません。何か楽に暮らしてゆける途《みち》はないかと考えていますと、むかし石川五右衛門《いしかわごえもん》という大盗人《おおぬすびと》がいたということを聞いて、自分も五右衛門という名前だから、泥坊《どろぼう》になったらいいかも知れないと考えました。
 それで彼は家《うち》を飛び出して、ある橋の下に住みました。昼間はそこで寝て暮し、夜になると盗みに出かけました。ところが、そうやすやすと人のものを盗めるものではありません。毎晩しくじってばかりいて、ろくろく御飯も食べられない始末になりました。
 ある日なんか、一晩中駆け廻っても、物を盗むことはいうまでもなく、ごみだめから食物のあまりを拾い取ることも出来ないで、まだ朝の暗いうちにぼんやり帰って来ました。そして、橋の欄干《らんかん》にもたれて、どうかし
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