て上手《じょうず》な泥坊になる工夫《くふう》はないものかと、しきりに考えていました。
 すると、横の方からひょっこり、一人のお爺《じい》さんが出て来ました。五右衛門はびっくりしてたずねました。
「あなたは誰ですか」
「わしは仙人《せんにん》じゃ」とお爺《じい》さんは答えました。
 よく見ますと、まっ白な長い髯《ひげ》がはえていて、手には節《ふし》くれ立った杖《つえ》をつき、何だかわからないぼろぼろの着物をきて、なるほど仙人らしいようすでした。五右衛門《ごえもん》は喜びました。仙人ならいろんな術を知ってるに違いないから、それを教わって、上手《じょうず》な泥坊《どろぼう》になろうと考えました。
「仙人ならいろんな術を知っていますか」と彼はたずねました。
「知っているぞ」
「そんなら、私にそれを教えて下さい」
 お爺さんは承知しました。けれども、ただ一つきり教えられないと言いました。五右衛門は色々考えた後に、どんな隙間《すきま》からでも家の中へはいれる術を習いました。
「わしにまた用が出来たら、ポンポンポンと三つ手を拍《たた》くがよい。そうすればいつでも出て来てやる」
 そう言ったかと思うと
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